まあくんの純情
〜海のある風景より〜

『Peroのさんぽ道』さまへサイト一周年のお祝い

 幼稚園の入園式で、とっても可愛い女の子を見つけた。
 色が白くて、昨夜ママが読んでくれた白雪姫みたいに可愛い子。
 もしかしたら運命の白い糸? え〜と黄色だったかな〜。黒はお葬式だから絶対違うし・・・え〜い面倒だ! 七色にしよう。
 その七色の糸で結ばれてる、運命の相手かもしれないって思ったんだ。
 だって、いつもママが言ってるもん。運命の相手には出会った時に感じるものがあるんだって。
 何を感じるのか教えてくれなかったけど、今の僕には何となく分かるぞ。
 きっと心臓がドッキンドッキンって音を立てることなんだ。
 友達になりたいな〜。声をかけてみようかな〜。
 いい子の僕が迷っているうちに、狙っていたかわいこちゃんのところに、にっくき峻が歩いて行った。
 ほんとは、僕の方が早く見つけたんだぞ。
 なのに何で峻なんかが、かわいこちゃんの横を独占してるんだよ。
 あいつはいつもそうなんだ。
 僕の方がいい男なのに、みんなが峻の方にばっかり行ってしまう。そんなの絶対おかしい。
 僕の方が絶対もてるはずなんだもん。峻なんて少し身体が大きくて、ガキ大将なだけじゃないか。顔だって、ジャニーズ系の僕の方が絶対可愛いし、かっこいいはず・・・。
 あっ・・・あの子あんなふうに笑うんだ〜。可愛い・・・・・・。
 うちのママよりも美人だ〜。
 決めた! 僕のお嫁さんにするぞ〜〜〜!!
 そうと決まれば、峻なんかに後れを取るわけにはいかない。
「やあ、初めまして。僕は濱田真彦。美人の君の名前を聞いてもいいかな?」
「あ〜? おい、まあくん! 何か用なのか? 俺の薫ちゃんに気安く話しかけるなよな!」
「何、言ってんだよ! こんなに可愛いレディーを独り占めしたらいけないんだぞー!! 美しいものはみんなで観賞するものだって、パパが言ってたんだから!!」
「はっ、おまえバカか? おまえの父ちゃん、絶対変だぞ。俺の母ちゃんが言ってたぞ。口の上手い男は信用したらいけないってさ。薫ちゃんも、まあくんには気をつけた方がいいと思うぞ。ところでさ、れでぃって何だ?」
「ふん。そんなことも知らないで、僕に対抗してたのか。いっぱんしょみんはこれだから困るんだよね」
「いっぱんしょみんって何だよ〜。まあくんは知ってるのか?」
「そんなことも知らないのか? はぁ〜、峻ってバカなんだね。いっぱんしょみんっていうのは、峻みたいに何も知らないやつのことなんだって。ママが教えてくれたからほんとだぞ」
「もう〜、あったまきたー!! そんなんだから、みんなに嫌われんだぞー。少しは、大人になれよなっ!」
「は〜い!! みなさーん、集まってくださーい!! これから、お名前呼ばれた人は順番に並んでね〜」
「ふん、よかったな、峻。先生のおかげで、レディーの前で恥をかかなくてすんだな」
 僕は、そう言った後、かわい子ちゃんにウィンクをして先生の方へ歩いて行ったんだ。
 かっこよく、決まったかな〜。ヘヘヘ・・・、照れちゃうな〜。
 でもその時の僕は、これから訪れる悲劇をまだ何も知らなかったんだ。


 園長先生のお話を聞いた後、新しいクラスに入って席に着いた。
 もちろん、可愛いあの子も一緒だった。お邪魔虫の峻も一緒にいたけど、この際どうでもいいや。
 だって、可愛いあの子は僕の視線をひきつけたまま離してくれないんだもん。
「北澤薫くん!」
「はい!」
 あ〜、可愛い声・・・最高だな。薫くんっていうのか・・・名前までが可愛い。
 僕がその名前に感激していると、またまたお邪魔虫の峻が立ち上がったんだ。爆弾発言を引っさげて・・・。
「みんなに言っとかなきゃ! 薫ちゃんは俺のお嫁さんになるんだから、ちょっかいかけたらいけないんだぞ。いくら薫ちゃんが可愛くても、人のものに手を出したら泥棒になるんだから気をつけてくれよな」
 こいつは〜〜〜いったい何なんだ〜。
「はいはい、峻くんの言うことは分かったけど、男の子同士は結婚できないのよ。それに今はみんなの顔と名前を覚えてもらうための時間だから、静かにしてくれるとありがたいんだけど」
「ごめん、ミッチ−。言いたいことはちゃんと言ったからもういいぞ、進めても」
 えっ・・・男同士? 男? ・・・だれが? ・・・峻と薫ちゃん? 男???
「えっえ〜〜〜っ!!! お・と・こ〜〜〜!!」
「まあくん・・・あなたもなの・・・もう少しだけ静かにしてくれるかな」
 僕はびっくりしてしまって、ミチ先生の声なんか右から左へと抜けていった。それどころか、最初から耳に届いてさえいなかったかも・・・・・・。
 薫ちゃんは薫ちゃんじゃなくて、薫くんで・・・・・・。
 僕がお嫁さんにしたいのは男の子で・・・・・・。その子は峻のお嫁さんになることになっていて・・・・・・。
 僕の頭の中はグルグルしてて、さっきまでダンスを踊っていたはずのウサギは昼寝をしている。
 結局、ミチ先生に名前を呼ばれたのにも気がつかなかった僕は、いつのまにかママに手を引かれて歩いていた。
 どこ行くんだろう・・・・・・あっ、そうか、帰るのか・・・・・・。
 それでもとまらない涙は、僕のショックの大きさを教えてくれている。
 よく考えると、僕・・・とってもかっこ悪い。
 これじゃ〜、王子さまにはなれっこないよ。 
 

 ご飯を食べてテレビを見ていると、パパとママが話をしていた。
 大人の話はむずかしくて分からないけど、その中に薫くんの名前が出てきたから気になって、いつもは聞かない話をこっそり聞いてしまった。
 少しずるいかなって思ったけど、薫くんの秘密を僕だけが知ってるってことが嬉しくてたまらなかったんだ。
『北澤さんちのお孫さん、今日まあくんのクラスに入園して来たのよ。弥生さんって、妻子ある男性の子供を生んだって聞いてたけど、あの子がそうなのね。弥生さんも愛人になんてならずに、ちゃんと結婚すればよかったのに。それにせっかく生んだ子供を捨てて、男に走ったらしいわよ。かわいそうな子供よね。もしもまあくんがあの子と仲良しになったらどうしましょう。嫌だわ〜。まあく〜ん、今日入園した子と仲良くしちゃダメよ。あなたはいずれパパの後を継ぐんだからね。あんな愛人の子供とは人種が違うのよ』
 あいじんの子って何だろう? アメリカ人や中国人みたいな外人さんのことかな?
 うん、きっとそうだ。じんしゅが違うっても言ったし、どっちも“じん”がついてるんだもん。僕って、頭いいよね。
 そうか、薫くんってかわいそうな子供なんだ。僕が、守ってあげなくちゃ。
 その時の僕は本当にそう思っていた。

 
 次の日から僕は薫くんと友達になるために一生懸命頑張った・・・・・・頑張ったんだ。
 なのに1週間経った今も、薫くんが笑いかけるのは峻だけでその笑顔は他のだれにも向けられない。
 おまけにそれを当たり前みたいに、峻の奴も薫くんのそばを離れようとしないんだ。
 だから僕は近づくことができないし、仲良くもなれない。
 おかげで、ここんとこイライラしっぱなしで・・・・・・きっとおかしくなってたんだと思う。
 あまりの悔しさに我慢できなくなった僕は、そのイライラを薫くん本人に最悪の形でぶつけてしまっていた。
 おトイレに行く薫くんをつけて行った僕は、何気なく隣に並んで声をかけた。
「薫くん、何でみんなと仲良くしないだ? まるで峻だけいればいいみたいに見えるぞ。そう言えば、薫くんってあいじんの子なんだってね。すごいじゃないか。僕とはじんしゅが違うらしいよ。それに、ママに捨てられたんだってね。峻の後ばっかり追いかけていたら、他に友達のできないかわいそうな子だって言われるんだぞ!!」
「ぼ・・・く・・・かわいそうじゃないもん・・・」
 薫くんは、トイレを飛び出して行った。
 僕は心の中が嫌な気持ちでいっぱいになって、何だか泣きたくなった。本当はこんなことを言いたいんじゃなくて、友達になりたかっただけなんだ。
 僕、どうして薫くんに優しくできないんだろう。
 本当は、峻みたいに笑いかけてほしいだけなんだ。
 なのに・・・どうして、泣かしちゃうんだろう。笑ってほしいだけなのに・・・何で意地悪言っちゃうんだろう。僕・・・すごく嫌な子だ。

 その後しばらく経って、僕は薫くんがいなくなったことを峻から知らされた。
 先生達のお部屋に、峻と一緒にお呼ばれしてミチ先生にいっぱい怒られたんだ。
 僕だって分かってる。僕が薫くんを泣かせて、悲しませてしまったこと・・・・・・。
 でも、峻が薫ちゃん薫ちゃんって言うから、僕・・・悔しかったんだもん。
 だって・・・僕だって薫くんと仲良くしたいし、笑いかけてほしい。
 峻ばっかりが、薫くんを独り占めするのはずるいんだ。僕だって・・・・・・。
 でも、実際、薫くんを泣かせてばかりいる僕より、笑顔を浮かべさせてくれる峻の方がいいよね。
 峻といる方が楽しいと思っても仕方ないんだ。
 分かっているけど、僕にはどうしたらいいのか分からないんだもん。
 ママは薫くんとは遊んじゃダメって言うから聞けないし・・・・・・。だれも僕に教えてくれないんだもん。
『優しくしないと嫌われるよ』
 初めてミチ先生が教えてくれた言葉は、今までだれも僕に教えてくれなかったものだったんだから・・・・・・。
 もう遅いかもしれない・・・・・・。
 だって、僕、もう意地悪しちゃったもん。薫くんは、もう許してなんてくれないよね。それがとっても悲しい。
 峻がわけの分かんないことを言って飛び出して行った後、ずっと我慢していた涙がポロポロと零れてきた。
 え〜ん、薫くんごめんよ〜。
 

 それからの僕は、相変わらず薫くんに意地悪だ。
 やっぱり笑ってくれない薫くんにイライラしてしまって、優しくすることができない。
 それが好きな子いじめをする子供っぽい感情だって知ったのは、僕が薫くんに積み木をぶつけて薫くんを庇った峻に怪我をさせた時だった。
 教えてくれたのは、峻のママで僕のママじゃなかった。
 僕は峻にいっぱい出遅れた理由が、その時やっと分かったんだ。
 悔しいけど、薫くんと峻は何よりもお互いを信じあっているんだと思う。いつも相手のことを大切にしているんだと・・・・・・。
 そうでなきゃ、僕がぶつけた積み木の前に飛び出したりしないよね。
 僕みたいに友達になってあげようと相手の出方を待つのと、友達になってくれと全身で伝える峻とでは、受けとめる方の気持ちもぜんぜん違う。
 今やっとそれに気がついた。
 もしかしたら、まだ間にあうかもしれない。
 だから、僕は今まで胸の中に溜め込んできた言葉を口にした。
「・・・・・・僕だって、薫くんをお嫁さんにしたいもん」
 その言葉を伝えることで、やっと僕は今スタートラインに立つことができたんだと思う。
 これからは薫くんをめぐる峻との戦いが、ず〜っと続いていきそうだ。
 よし!! 
 僕、薫くんをお嫁さんにできるように、頑張っていい男になるぞ〜〜〜!!
 峻なんかには、負けないぞ〜〜〜!!!
 ペロさま、サイトオープン一周年おめでとうございます。
優しく透明感のあるイラストは、どこかに置き忘れた懐かしいなにかを思い出させてくれます。これからも、素敵な作品で私の心に爽やかな風を送ってくださいね。 ささやかですが、お祝いと感謝の気持ちを込めてプレゼントを贈らせていただきます。
ペロさまのご健康と、今後のご活躍をお祈りしています。
    2003.5.24     たがちゃん